4月からフィンランドのヘルシンキ大学哲学?歴史?芸術学部で学外派遣研究員として研究活動する文学部?石野裕子教授の現地リポートをお伝えします。
フィンランドの戦後現代史を多角的に研究
私はフィンランドのナショナリズムに関心を抱いてこれまで研究を進めてきた。ここ数年、研究関心は現代史に向いており、今回の滞在ではソ連と2度戦い、敗北した第二次世界大戦が、現代のフィンランドにおいてどのように「記憶」され、社会に影響を与えているのかを様々な角度から研究している。
フィンランドに長期滞在するのは今回が3回目である。1回目が29年前(!)の学部時代のハーパヴェシという町でのホームステイ、2回目が12年前の大学院時代の留学。ヘルシンキ大学で勉強していたので、今回、教員として戻って来ることができてうれしい。
久しぶりに暮らすヘルシンキの街並みは、ほとんど変わっていない。ただ生活は大きく変化した。日本より電子化が進んでおり、あらゆるところでスマートフォンが必須である。また、インフレ、恐ろしいほどのユーロ高で物価が留学していた時の1.5倍から2倍に感じられる。しばらくすると慣れてしまったが、たまにクレジットカードの明細を見てクラクラする。
ヘルシンキ大学では、トペリア(Topelia)という歴史ある建物の一室を使用させてもらっている。隣人のヘンリカ?タンデフェルト講師は快活でかつ親切な人柄で、何かとお世話になっている。旧来の友人との親交に加えて、新しい出会いも楽しんでいる。
夏はフィンランド各地の戦争博物館、記念碑、英雄墓地(戦没者墓地)を巡った。実際に戦争の「記憶」がどのように展示されたり、説明されていたりしているのかを調査した。ロシアの国境近くの街も巡ったが、国境が閉ざされたのでロシア人観光客で賑わっていた店が廃業したりして閑散としていた。ヘルシンキでもいつも見かけたロシア人観光客の姿もない。そのような変化を感じながらも、充実した在外研究生活を過ごしている。このような機会を与えてくれた国士舘大学、そして快く送り出してくれた同僚に感謝する。
なお、夏の調査旅行の成果については、次号の『國士舘大學教養論集』、『国士舘人文科学論集』に報告予定である。