Episode_7
他の法律分野や
外部の考えを取り込み
実践力のある
法律家を育てる学び
斉木 秀憲Hidenori Saiki
法学研究科 法学専攻 教授※2024年取材当時
国士舘大学大学院法学研究科では、他の法律分野や外部講師との連携やシンポジウムなどを通じて、学外との接点を積極的に創出している。どのような理由から、他の法律分野や外部の視点や考えを導入しているのか? 学生が学ぶ上でどのようなメリットがあるのか? 他の法律分野の教員や学外の専門家を招いて開催される「修士論文発表会」、外部講師による「シンポジウム」の様子を伝えるとともに、法学研究科?斉木秀憲教授に、他の法律分野や外部とのつながりを重視する背景や、「税理士」という職業に寄せる想いなどをうかがった。
租税法の解釈適用には
幅広い知見が必要
“IT化の波に飲み込まれない”実践力のある税理士の育成を目指す斉木秀憲教授。斉木研究室の学びは、視野の広いリーガルマインドを養えるよう、学内外からの幅広い視点や意見を取り入れているのが特徴だ。実社会で税理士として活躍する修了生や関連領域の専門家、民法、商法、刑法など周辺領域に携わる専門家まで。他の法律分野や学外との接点を重視する理由は、税理士として租税法を正しく解釈適用するためには、分野を横断した幅広い知見が必要と考えているからだ。それだけではない。租税法分野だけの内部視点の学びに依存し過ぎると、教育内容が固定化されるリスクがあると斉木教授は言う。「必要に応じて新たな教育内容を導入するように努めてはいますが、いったん構築されたカリキュラムを改定できる機会はそう多くはありません。時代に即した実践的なリーガルマインドを養う上で、外部とのつながりは欠かせません。また、租税法は、公法の一分野であるとともに、その解釈適用は私法上の法律関係を前提とすることが多いため、他の法律分野の教授陣からのアドバイスも重要で、各発表会だけでなく、ゼミ合宿にも参加し、指導していただいております。」

専門家の目線で
論文の客観的妥当性を検証
斉木研究室で学ぶ大学院生のほとんどは税理士志望だ。税理士の資格取得には、会計学科目2科目、税法科目3科目の試験を受けて合格しなければならないが、斉木研究室で修士論文を作成して国税審議会の認定を受けられれば、税法科目が2科目免除となる。そのため、研究室で学ぶ大学院生のほとんどは、修士論文の作成を目指して租税法を学んでいる。
研究室には日頃から多数のOBが訪れ、修士論文のテーマ設定や方向性などについて随時、学生の相談に応じているが、さらに横断的な指導を受けられる場が「修士論文中間発表会」だ。発表会は、指導教員である斉木教授や修了生である多数のOB、専門分野の異なる同大学院の教授陣が出席するだけでなく、外部の専門家も招かれ、毎年開催される。
学内での指導が主に“学術論文”としての妥当性を評価するものであるのに対し、“資格取得を目指す「免除論文」としてどうなのか”を検証するのが外部識者の視点。その意味で、中間発表会に外部の専門家を招くことは大きな意義があると斉木教授は捉えている。「学内における指導は、必ずしも免除論文の妥当性を前提とするものではありません。税務の専門家を通して外部の考え方やアドバイスを取り入れてこそ、免除論文としての客観的妥当性が確保されると考えております。お招きする税理士は、税務行政業務及び税理士業務ともに実績があり、理論と実践とを兼ね備えた方々ばかり。公表前の最新事案をもとにしたアドバイスにより、論文をブラッシュアップできたという事例もありました。また、外部の専門家との接点は、“目指す税理士像”を具象化する上でも役立ち、学修意欲の向上にもつながります。学内における教育内容の内部質保証の客観性、妥当性を高める上でも有意義だと考えています」

外部の知見を取り入れ
多角的な法的視点を養う
国士舘大学大学院法学研究科では、外部講師による講話やシンポジウムなどを通じて、院生だけでなく、修了生や教授陣に対しても幅広い視点や考えを学ぶ機会を創出している。
2024年12月7日、東京都立大学法学部?同大学院法学研究科教授の星周一郎氏を講演者に招き、シンポジウムが開催された。星氏は刑法、刑事訴訟法、刑事政策、情報法、医事法などを専門とする法学者であり、コロンビア大学 ロースクール 客員研究員を務めた経験を持つなど、海外の刑法理論にも精通するエキスパートだ。同シンポジウムは、社会や経済のグローバル化、国際化、IT化への対応を強化し、国際感覚を養うことを目的に企画された。
シンポジウムのテーマは「経済事犯における制裁のあり方とAI利用の今後」。講話では、星氏自身の経験をもとに、主に日本とアメリカの法解釈?適用の違いが語られ、様々な観点からそれぞれの考え方やメリット?デメリットなどが紐解かれた。今後の日本が時代や実情に即してどのように法を解釈適用し、また必要に応じて改定していくのが適切なのか。聴講者は一様に、深く考えさせられた。
このような機会を通じて外部の考えをインプットすることについて、斉木教授はどのような想いを抱いているのか。「租税法は行政法の一部であり、租税法に基づく課税処分は行政法の範疇ということになります。さらに、罰則規定もありますから、刑法の特別法でもあるわけです。したがって租税法の解釈適用は、租税法のみの知識やそれに関する独自の考え方だけではなく、まずはグローバル化、国際化、IT化の中で経済的取引等を把握した上で、多角的な法的視点で法の解釈適用を行わなければなりません。学生には、租税法をあくまでも“法律のひとつ”と捉え、広い視野で学んでほしいと考えています」

国民主権に基づく納税義務の適正な実現を図ること。それが税理士の使命だ。だが、もっと大切なのは、「その福利を国民が享受することだ」と斉木教授は言う。「税は、国家財政の礎であり、国民が健康で文化的な生活を送る上で必要な財源です。その適正な納税義務の実現を使命とする税理士は、まさに高度専門職業人として国家社会に貢献できる人材であると考えています。もっと言うなら、租税法の専門家である税理士は、そのような崇高な社会的役割を担っていると言えるでしょう。学生たちには、幅広い領域の知識、知見を身につけ、単なる申告書作成屋ではない“崇高な社会的役割を実現できる”税理士になってほしいと願っています」