本学の17万人以上にのぼる卒業生は、社会に出てからさまざまな世界で活躍を見せています。この企画では、社会で奮闘する卒業生に国士舘で学んだことや現在の目標?夢などをインタビューし紹介します。
2024年12月16日取材
「失ったものを数えるより、今できることを探して欲しい」
こう語るのは、義足のモデルとして活躍する本学卒業生の川原渓青さん(黄金城电子游戏_澳门黄金赌城-【唯一授权牌照】2年理工学部卒?黄金城电子游戏_澳门黄金赌城-【唯一授权牌照】4年大学院工学研究科修了)だ。モデル、インフルエンサー、そして障がい者支援企業の社員、と多彩な顔を持つ彼の半生を辿りながら、その魅力に迫る。

水泳に打ち込んだ学生時代、突然の事故
兵庫県で生まれ育った川原さんは、活発な少年時代を過ごした。両親は彼の「やりたい」という気持ちを尊重し、囲碁や料理など、さまざまなことに挑戦させてくれた。その中でも、水泳は「プールで溺れたことがきっかけで始めた」というから意外だ。中学からは本格的に競技として打ち込み、水泳での実績が認められ高校、大学へと進学。大学では厳しい練習と勉強に明け暮れる日々を送っていた。
大学3年生の1月、人生を大きく変える出来事が起こる。突然のバイク事故で右膝下を切断することになったのだ。就職活動を控えた時期でもあり、将来への不安、そして何よりも「生きている意味」を見失い、深く苦悩した。


「できない」から「やろう」への転換
日々、喪失感に苛まれていた入院生活の中で、「スケートボードもできないのですか」と諦め放った言葉に、担当医から「私は60歳になってもできないよ」と返され、「はっ」とした。
「やる前から理由をつけて諦めていた。諦めたら何もできない。『できない』ことを数えるのではなく『やろう』と考えるようになった」
リハビリに励み、人一倍歩き、体を鍛えた。毎日日記をつけ、ネガティブな感情を吐き出すようにした。そんなある日、病院に見舞いに来た恩師からパラ水泳の道を勧められた。最初は戸惑いもあったが「歩くこと」に必死だった毎日に「泳ぐ」という飛び越えた提案が希望の光に見えた。
復学後、川原さんは水泳部のパラ水泳チームで練習を再開した。
「国士舘にパラ水泳チームがあったことは、本当に大きかったです。今まで同じプールで一緒に練習してきたので、障がいやパラ水泳に対しての抵抗がなく、自分もこの部ならできる、と思えました」
コーチ陣の存在も大きかった。
「自分の意見を最大限尊重してもらえました。国士舘のパラ水泳チームのお陰で今でも水泳とつながっていられると思います」




SNSとの出合い、表現者としての道へ
パラ水泳を始めた当初は「水に入るのも怖かったし、『幻肢痛』の影響で健常な左足のキックが強くなり、まっすぐ進めなかった」という。しかし、3カ月で泳ぎ方をつかんだ川原さん。競技を始めて6カ月後の大会で日本新記録を達成。日本代表合宿に参加するまでになった。しかし、奇しくもコロナ禍で大会の状況は大きく様変わりし、観客のいない選考大会にモチベーションを維持することが難しくなる。
「自分は挫折しましたが、無観客でも意欲を持ち続け、パラリンピックに出場した仲間を心から尊敬します」
と、当時を回顧する。
そんな中、川原さんは友達の勧めでSNSのTikTokを始めた。義足の日常生活を発信する中で多くの反響を得るようになり、モデルとしての活動を始めるきっかけもつかんだ。
「入院中、義足の生活を発信している人がいなかったんです。だから、自分がやろうと思いました。義足でもこれだけできることがある。失ったものを数えるのではなく、今できることを探してほしいという思いを発信したかったんです」
その想いは全世界へと広がり、同じような状況にいる患者本人や家族から、今でもメッセージが届くという。


水泳とのつながり、そして未来への展望
水泳とは年数回、大会に出場することでつながりを保ち、原点回帰の場としている。
「パラ水泳大会で出会う人はみんな明るく、水泳に取り組む姿勢に感銘を受けます。あの場所は、自分を見つめなおす故郷のような存在です」
今後の展望について川原さんは「自分の個性、強みを生かして、自分なりの方法でインクルーシブな社会の実現に貢献していきたいです」と力強く語る。
最後に、在学生へのメッセージを尋ねると「自分で何かを起こすことも大事ですが、何か起こった時に対応する能力も人生においては大事だと思います。焦らず、それぞれのタイミングを大事に、余裕を持ってほしいですね」と答えてくれた。


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現在、モデルとして活躍する川原さんは、大学で学んだスポーツ工学やトレーニングのお陰でこの身体を維持できているという。そんな彼のインスタグラムには、紹介文に「ずっと運がいい」と書かれていた。
ポジティブに今を見つめる川原さんのさらなる活躍に期待したい。
プロフィール

氏 名:川原 渓青(かわはら?けいせい)
生年月日:1997年11月10日生まれ(27歳)
出身学部:理工学部2020年卒業?大学院工学研究科2022年修了
出身地 :兵庫県姫路市
モデル、インフルエンサー