Episode_3

教授?修了生?在学生が
三位一体で築く
強固なリレーションシップ

インタビューの様子

田邉 恵

田邉 恵
Kei Tanabe

国士舘大学大学院
総合知的財産法学研究科
総合知的財産法学専攻
教授 弁理士

佐々木 香織

佐々木 香織
Kaori Sasaki

2011年3月国士舘大学大学院
総合知的財産法学研究科
総合知的財産法学専攻 修士課程修了
弁理士

S?太田

S?太田
S?Ohta

2012年3月国士舘大学大学院
総合知的財産法学研究科
総合知的財産法学専攻 修士課程修了
弁理士

2024年10月5日、総合知的財産法学研究科で「第1回 総合知財交流会」が開催された。交流会の構成と趣旨は以下のとおり。

【構成】
第1部:修了生2名による仕事内容の紹介
第2部:懇親会

【趣旨】
(1)修了生同士の情報交換の機会をつくる。
(2)在学生に修了生の仕事の話を聞く機会、進路相談できる機会をつくる。
(3)修了生同士継続して交流を続けられる体制をつくる。

交流会の第1部では、企業の知財部?法務部に勤務する修了生が登壇して仕事内容を発表し、質疑応答が行われた。第2部は大学近くの飲食店に場所を移し、懇親会が開催された。今回の交流会の主催は、修了生である佐々木氏と太田氏の2名。二人は弁理士試験を受験した際の同期に当たり、両名とも弁理士として仕事をする同業仲間でもある。交流会は、どのような経緯で開催されたのか、また交流会に寄せる想いはどのようなものなのか。佐々木氏と太田氏、そして開催まで2名をサポートした田邉教授の3名にクロスインタビューを実施した。

知識や経験が
クローズドになることの多い
職業だから、
情報交換は有意義

交流会を開催するに至った
経緯を教えてください。

佐々木氏(以下敬称略):実現に向けて具体的に動き始めたのは、飯田昭夫先生の退官記念パーティがきっかけです。普段はなかなか会えないような修了生たちが多数集まり、先生も「皆に会いたかった。いつか同窓会ができたらいいなとずっと思っていた」と喜んでくださいました。それを機に、同窓会も兼ねて交流会を企画しようと、田邉先生に相談したのが始まりです。

田邉教授(以下敬称略):佐々木さんから「交流会を開催したい」と話があって、“まずは試しに一度開催してみましょう”ということになったんですよね。

太田氏(以下敬称略):もっとさかのぼると、佐々木さんとは数年前に外部勉強会で再会し、「同じ職業に就いている者同士なのだから、もっと情報交換を定期的に行っていこう」と意気投合したことが、今回の布石にもなっています。知識や経験がクローズドになることの多い職業だからこそ、情報交換は意義があります。佐々木さんとは再会後、しばしば連絡を取り合い、どのような形で 修了生が交流できる場を設けようかと青写真を描いていました。

佐々木:当科の4期生として私が学んでいた頃から、恩師である飯田先生が「将来、大学院の教え子同士の間で仕事が回るようになったらうれしい。弁理士だけでなく、企業の知財部で仕事をする人や弁護士になった人など、修了生同士が協働しながら仕事をする。そんな関係性を築いていってくれるのが夢」というようなことをおっしゃっていました。社会人になってからもその言葉が心にあり続けていたのですが、当時は弁理士になる人も知財部で仕事をする人もまだ多くはなく、“先生の願いが現実になる日が来るのだろうか?”と半信半疑でした。それが今や修士も17期を数えるまでになり、パーティで集まった修了生の人数を見たとき、“先生の想いを形にする時が来た”と感じました。

田邉:交流会の実現にあたっては、佐々木さんと太田さんと私でオンラインの打合せをしながら進めました。主催はあくまでも修了生のお二人。私は簡単なサポートができれば、という思いでした。交流会を行うための教室を開放していただくなど、大学側の協力もあって、今回無事に第1回交流会を開催するに至りました。

インタビューの様子

教員と学生の距離が近い
温かな学び舎

大学院時代の仲間と、
どのような関係を築いていますか?

佐々木:在学中は弁理士志望の学生が多かったため、問題集の解答の意図が飲み込めないときなどは、同期だけでなく先輩にもよく質問していました。一人ではなかなか理解が深まらないことも、周りと話すことで新たな視点が与えられたり、認識の間違いに気づくことができたりするので、ずいぶん助けられましたね。

太田:在学中は真面目に勉強に取り組んでいなかったため(笑)、仲間とお酒を飲んだ覚えはあるのですが、勉学面でのかかわりはほとんど記憶にありません。修了後に弁理士試験の勉強を始めてからは、先に取り組んでいた友人達に勉強方法や不明点などを教えてもらっていました。受験勉強が軌道に乗ったあとは、判例や学説の解釈等について議論を交わして理解を深めるなど、切磋琢磨する関係になれました。

佐々木:大学院時代の仲間とは今も変わらない付き合いです。知財に携わっている人が多いため、会えばどうしても仕事の話になってしまいますね。変わった点といえば、私が弁理士になったので、企業の知財部に所属する後輩から相談を受ける機会が増えたことぐらいでしょうか。

太田:知財や法律などに携わる友人達とは、実務や業界に関する情報交換をしばしば行っています。IT業界やメーカーなどへ就職した仲間とも交流が続いていて、定期的に飲み会を開いて楽しい時間を過ごしています。

教授とのかかわりについても
教えてください。

佐々木:大学院は学部と比べると圧倒的に学生の数が少ないため、先生方との距離が近いですよね。私は在学中、よく先生方の部屋に突撃してコーヒーをごちそうになっていました。勉強に関する質問もときにはあったと思いますが、ほぼおしゃべりをしに行っていたような感覚です。お忙しいでしょうに、嫌な顔ひとつせず、知財のことから世間話まで雑談に応じてくださったことが、良い思い出として残っています。

田邉:その雰囲気は今も変わっていませんよ。授業の合間や前後に、学生たちがアフタヌーンティーならぬアフタヌーンコーヒーを楽しんでいきます(笑)。もうすっかり当科の文化として踏襲されている感じですね。

太田:私は学外から教えに来てくださっていたある先生と親しくしていました。講義後に食事に連れていってくださったり、知的財産法や法律関係で働く社会人の方を紹介してくださったりと、非常に良くしていただきました。その先生とは今も定期的にお会いしています。

佐々木:弁理士試験に受かって就職した当初は実務の考え方などで迷うところも多く、各専門分野の先生に連絡を取って相談させてもらっていました。素晴らしい経歴の先生方に修了後も気軽に相談できるのは、教え子の特権ですね。

田邉:そうですね。今も毎週土曜日には修了生が研究室を訪ねてくれるので、お茶をいただきながら近況を聞いたり、時には転職や進学の相談に乗ったりしています。留学生など、遠方に住む修了生ともメールやZOOMでの交流が続いています。毎年、修了生1~2名を「知財実務と職業倫理」のゲスト講師に招いて、特許事務所や企業での仕事の話をしてもらっているのですが、在学生にとって非常に有意義な時間になっていると思います。

インタビューの様子

真摯な学びが
人生を豊かにする

在学生に望むこと、
伝えたいことはありますか?

太田:受け身ではなく、できる限り自学を心がけてほしいですね。私は予備校に行かず、研究室にある知的財産法の参考書を読み漁ることで知識を得ていました。今になって、その経験が役立っていると実感する場面が多いです。企業に勤めて知財や法務の仕事をしていると、日々、数多の法的問題に直面し、早急に対応しなければいけないケースの連続です。そのような中で、自学で養った自己解決能力が大きく利いてくるのです。全部の判例や法律を記憶しておくのは難しいですが、法律の調べ方、理解の仕方が身についているだけで対応速度が大違い。初見のトラブルであっても自己サーチである程度まで対応できるため、質の良い仕事を目指す上で重要なスキルとなります。

佐々木:知的財産法は幅広い分野に関係しています。たとえ弁理士にならなくても、知財部に勤務しなくても、“特許を侵害しているかもしれない”と察知できる感性、危機管理能力を身につけることは大事です。感覚を鋭敏にし、自分が正解をもっていなくても、誰かに相談してリスクヘッジが取れること、そして、相談先や人脈があるということは、どのような仕事をする上でも役に立つと思います。

田邉:指導者として学生に望むのは、良い人生を送ってほしいということです。特に、“教養を身につける”ということが人生をより深く、豊かにしてくれると私は考えています。そのためには、ただ知識を詰め込むのではなく、“何かを真剣に学ぶことの楽しさ”を知るのが大切。そのきっかけを作れたらうれしいと思いながら、日々、学生と接しています。その上で、知的財産法に対する知識が修了後の暮らしや仕事で役に立つことがあるなら、なおうれしいですね。

交流会を定着させ、
修了生の輪を大きく広げたい

交流会を通じて得た情報や人脈が、
どのように仕事に生きると
お考えですか?

佐々木:会話や情報交換を通じて視野が広がったり、知的財産法に関する認識を深めたりすることができると考えています。専門分野だからこそ、特有の言語を理解する仲間の存在は貴重です。

太田:同感です。目に見えない無体物を扱う法域なので、解釈の幅が広いんですよね。同業のプロとして活躍する仲間たちの多様な意見、経験を聞くことが、自己の解釈のブラッシュアップや新たな気づき、発見につながることは多いのではないでしょうか。

田邉:交流会には在学生も全員参加します。在学生にとっては、社会で働く先輩方のリアルな体験談を聞ける貴重な機会。懇親会だけでなく、登壇して仕事の様子を紹介していただく場を設定してもらえたことが、指導者としては非常にありがたいですね。修了後の進路を考える上でも参考になり、選択肢が広がるだろうと考えています。

佐々木:当初は、懇親会だけでもいいかな?と思ったのですが、多様な立場の修了生がいるので、せっかくならきちっと発表の場を設けて、在学生だけでなく修了生の私たちも知識を増やしちゃいましょう、という算段です(笑)

インタビューの様子

今後、交流会をどのようなものに
していきたいと思いますか?

佐々木:毎年開催して、先輩と後輩が交流する場として定着させていきたいです。初年度である今年は手探りの部分も多いため、この先、形が変わっていく可能性はありますが、今回の様子を参考にし、話し合いながらより有益なものへと成長させていきたいと考えています。

太田:様々なビジネスを多角的に理解し、価値ある法的判断が行えるようになるためにも、異業種で活躍する修了生たちとの交流は大切。最先端の研究をなさっている教員の皆さまと修了後も交流し、アカデミックな立場からご意見をいただければ、法的判断に深みを持たせることにもつながります。交流会を定着させて、どんどん輪を広げていけたらうれしいですね。私は修了後に大学院の自習室で勉強させていただいた恩があるため、交流会を通じて後輩たちに知識や経験を引き継ぎ、少しでも恩返しができたらいいな、という想いもあります。

田邉:教員側の思いとしては、できるだけ修了生が主体で続いていくのが望ましいと考えています。教員の顔ぶれは時代とともに変わっていきますが、修了生はずっと変わらず本学の修了生。今回も、そのような意識で側面からサポートしたつもりです。佐々木さん、太田さんをはじめとする諸先輩の想いが後輩へ引き継がれ、交流が続いていくよう願っています。

インタビューの様子

交流会では、知的財産関係の職務に当たる先輩の実体験が詳細に語られ、参加者から様々な質問が飛び交った。同業に就く参加者からは“このような場合はどう対処しているのか”といった具体的な指南を求める質問も見られ、関心の高さとともに、自身の仕事に生かしたいという熱意が強く感じられた。在学生にとっては、職業イメージを具象化させる貴重な機会になっただろう。教員、学生、修了生、それぞれの間で紡がれる絆が結集し、ますます強固なリレーションシップが築かれようとしている総合知的財産法学研究科。「修了生同士で仕事が回るような関係性を構築してほしい」──そう願った先導者の想いが結実する日は近い。