国士舘大学21世紀アジア学部を卒業したヤン?ヨシエさんは、現在、台湾から進出してきた日本企業に勤めています。もともと海外に行きたいと思っていたヤンさんは、21世紀アジア学部のBM5というプログラム(現グローバルスタディープログラム)で、中国の大連にある大学に留学。帰国後は中山雅之先生のゼミでスタートアップを学び、企業やNGOの研修やコンサルティングにも同行して、さまざまな体験を積みます。今回はお二人の対談を通して、キャンパスを飛びだす21世紀アジア学部のダイナミックな学びについてご紹介します。
キャンパスを飛びだす学び
- 編集部
- 中山先生にお伺いします。「21世紀アジア学部」は何を学び、どんな人材を育成する学部なのでしょうか?
- 中山
- 21世紀はアジアの時代と言われています。その躍動するアジアを舞台に活躍できる人材を育てることが、この学部の目的です。そのために外国語を習得し、経済学や政治学といった学術分野の壁を超え、幅広く学んで実践的な専門性を身につけてもらいます。
- 編集部
- 学生は在学中に海外に行くこともあるのでしょうか?
- 中山
- はい、基本的にすべての学生に海外に行って学んでもらいます。そのために3?4週間の語学習得を目的とした海外研修や、長期の海外留学など、さまざまなプログラムを用意しています。外国に行くのは少し勇気がいるかもしれません。それでも、それを乗り越えると、生きた文化が身につき、世界から来る留学生と友達になれます。21世紀アジア学部のテーマは「アウト?オブ?キャンパス」です。学びの場はアジア全域また全世界にあります。
- 編集部
- ヤンさんも留学をされたのですか?
- ヤン
- はい、私は本学にあったBM5という制度を利用して中国の大連の大学に留学しました。
- 中山
- BM5のBはBachelor(学士)で、MはMaster(修士)です。BM5は長期の海外留学を含む21世紀アジア学部の特徴的な学びで、大学の5年間でMaster(修士)まで取れるプログラムです。ヤンさんは大連にどのくらい行っていたの?
- ヤン
- 私は1年半ですね。入学して半年間、町田キャンパスで学び、それから2年生の終わりまで大連にいました。
- 編集部
- その後は日本に帰ってきたのですか?
- ヤン
- いえ、私はそこからシンガポールに行って、現地の会社でインターンをやりました。
- 編集部
- インターン? インターンシップをして大学の単位が取得できるのですか?
- 中山
- そうです。企業でインターンシップをしても、この学部では授業の一環になっているので、単位認定されます。これも21世紀アジア学部の学びの特徴ですね。
- 編集部
- どんな企業で働かれたのですか?
- ヤン
- シンガポールのショッピングセンターに入っている日本企業のスーパーマーケットで働いていました。日本人のお客様に通訳をしたり、その他いろんなアシストをしていました。
- 編集部
- 働く経験を得られて、そのうえ大学の単位ももらえて、いいですね。
- 中山
- いいですよね。今、在学している学生も、この間までオーストラリアのカフェで働いていました。彼はワーキングホリデイの制度を使って海外に行きました。
- 編集部
- ワーキングホリデイで行っても、単位認定してくれるのですか?
- 中山
- およそ90時間の実習で2単位が標準です。外国で働くって、ものすごく勉強になりますよ。オーストラリアに行った彼は、語学も頑張って、TOEICで910点取りました。他にもニュージーランドに行った学生がいますが、楽しすぎて帰ってこない(笑)。今は大学を休学して、向こうで働いています。もう2年ぐらい行っているのかな。
- 編集部
- ヤンさんにとっても、海外留学はいい学びになりましたか?
- ヤン
- そうですね。海外に出ると言葉の壁もあるし、文化も違うので大変なんですが、その分、五感をフルに使うようになります。生きている刺激がありました。最初大連に行ったときは、ここで1年も2年もやっていけるのかと泣きそうになりましたけど、でも、1、2カ月すると慣れてきて、楽しくなってきました。すごくいい経験になったと思います。
アジアを舞台に活躍
- 編集部
- ヤンさんは、今はどんな会社にお勤めですか?
- ヤン
- awoo株式会社というところで働いています。台湾から日本に進出してきた会社で、今は本社を日本に移したので日本の企業になっています。IT系のスタートアップ企業ですね。
- 編集部
- そこでどんなお仕事をされているのですか?
- ヤン
- ECサイト向けにハッシュタグ技術を使ったAIマーケティングソリューションの導入と運用支援をしています。
- 編集部
- 名刺の肩書きがすごいですね。シニア?マネージャー。
- ヤン
- 肩書きはかっこいいんですけど、新しい会社なので、私が入社したときには日本側のチームは10人ぐらいしかいませんでした。カスタマーサクセスという部署にいるんですけど、その中の2人が新卒の子で、私が経験者だったのでそういう肩書きになりました。東京に本社がありますが、ふだんは自宅でテレワークをしています。会社には月に1回ほど、チームのみんなで飲むために顔を出しますね。
- 中山
- いいですよね。それでけっこう高い給料をもらえるんですから(笑)。
- 編集部
- 卒業してすぐにこの会社に就職したのですか?
- ヤン
- いえ、この会社は2021年からなので、3年目です。新卒で入ったのは日本の不動産会社でした。ただ、そこの会社とは社風が合わなくて1年で辞めました。次に入ったのが博報堂系のスタートアップ企業で、大学のときにゼミで一緒だった友達の紹介で入りました。そこではモバイルに特化した広告の販売をやっていました。
- 編集部
- そこは何年ぐらい勤めましたか?
- ヤン
- そこも1年で辞めました(笑)。やっぱり肌に合わなかったので。
- 編集部
- そこも1年で(笑)。それからどうされました?
- ヤン
- はい、シンガポールの会社に行きました。もともと海外で働くことを目指していたので、ようやく夢がかなったという感じです。日本企業がシンガポールでビジネスを始めるときの進出支援をする会社でした。そこで3年ぐらい働きました。
- 中山
- そこから日本に帰ってきた。
- ヤン
- はい。そのままシンガポールに住み続けるかどうかを考えていたときに、中国に住んでいた彼氏が日本に行くっていう話があって。じゃ、日本に戻ろうかと思って、就職活動をしました。そこでタイミングよく、インド系の会社が求人していたので、そこに入ることにしました。
- 中山
- その会社はソフトバンクの孫さんが出資している企業ですね。ホテル事業、それと不動産の賃貸契約を全てオンライン化することを目指していました。
- 編集部
- その会社にはどのくらいいましたか?
- ヤン
- 親会社のソフトバンクを含めて2年半ぐらいです。
- 編集部
- そして、現職のawoo株式会社に入ったわけね。
- ヤン
- そうです。その会社の元上司がawooに勤めていて、じゃウチに来たらということで、台湾人の社長と面接をセッティングしてくれました。それで入社することができました。
- 中山
- 細切りの人生でいいですね(笑)。
- ヤン
- ちょっとやめすぎですか?(笑)
- 編集部
- いや、やめる度にスキルアップしてるんじゃないですか。
- ヤン
- そうそう、確実にスキルアップしていますから(笑)。
- 編集部
- 今後の目標はありますか? やってみたいこととか。
- ヤン
- いずれは自分で起業したいと思っています。ただ、今はまだそこまでの自信がないので、誰かの事業を手伝う形でスタートアップに関われたらいいなと思っています。そこから自分でやりたいことを見つけて、いつかは自分で起業したいですね。それが目標です。
- 中山
- 良い事業が見つかるといいですね。
- 編集部
- ヤンさんは、なぜ国士舘大学の21世紀アジア学部に入ったのですか?
- ヤン
- 「アジア」というキーワードに惹かれました。私は日本生まれですが、父がマレーシア人で、9歳から13歳までマレーシアに住んでいました。日本には中学2年生のときに戻ってきて、高校も日本でしたが、将来は海外で働きたいという夢があって、それで21世紀アジア学部を選びました。
- 中山
- ヤンさんはお母さまが中国の方で、お父さまがマレーシア。生まれは日本で、母語は日本語ですが、中国語と英語ができて、マレー語も日常会話ぐらいならいけるんです。アイデンティティは変化していますね?
- ヤン
- 一応マレーシア人だと思うんですけど、最近はどんどん日本人になってきていますね(笑)。
- 編集部
- まさに国際人ですね。中山先生のゼミではどんなことを学ぶのですか?
- 中山
- 基本的に、私が学生に教えているのはスタートアップのことです。新しく事業を起こすとか、イノベーションを創るとか。授業の中でスタートアップのネタを考えて、実際に起業してもらいます。
- 編集部
- えっ、学生のうちから起業しちゃうんですか?
- 中山
- はい、起業してもらいます。
- 編集部
- ヤンさんも学生起業したのですか?
- ヤン
- いくつかプロジェクトはありましたけど、私が携わったのは語学カフェです。
- 編集部
- 語学カフェ? それはどういうプロジェクトですか?
- ヤン
- 日本人学生と留学生で取り組んだプロジェクトです。もっと身近に、誰もが気軽に語学を学べるようなカフェを開いて、運営までやりました。
- 中山
- ただ単に起業するだけではありません。ゼミでは、企業で使っている教材を使い、経営戦略やスタートアップについて学びます。理論をしっかり学んだうえの実践ですね。
今に生きる大学の学び
- 編集部
- それはどのような教材ですか?
- 中山
- 大手の企業研修で私が使っている教育ツールです。今も企業で教えていますが、そこで使う教材をそのまま学生にやってもらいます。とてつもなくハイレベルな教材ですが、学生は頑張ってやりますね。そうすると少しずつ伸びていきます。
- 編集部
- ヤンさんもその教材を使って学んだんですか?
- ヤン
- はい、使いました。予算があって、キャッシュフローとかを全部手書きで作って提出するんです。すごく難しかったですね。
- 中山
- 他にも、実際に三井物産やJICAなどの研修やコンサルティングの場に学生を連れていくんですよ。アシスタントという名目で。これがいい学びになるんです。世の中のトップレベルのビジネスマンと触れあえるから。本当はゼミの全員を連れていきたいんですけど、そこは難しいので、限られた人になりますが。ヤンさんも参加しましたね。
- ヤン
- はい。ものすごく刺激になりました。こういう人たちが世の中を回しているんだなって、実感できて。仕事の現場を見るのはいい勉強になりました。
- 中山
- 現場を体験すると、全然違いますね。授業で素地をしっかり学び、それから外に出て行く。これは、国士舘大学の教育指針に基づく学びなんです。「読書」「体験」「反省」「思索」の4つ。まずは読書して、それから体験する。そこで自分の足りなさを実感して、反省して、思索する。この4つを繰り返すことで、学生は人間として成長していきます。そして、学ぶ楽しさが分かれば、後はどんどん自分たちで学んでいきます。
- ヤン
- 外に出ると、自分に足りないものが分かりますからね。すごくいい勉強になりました。
- 編集部
- 中山先生に伺いますが、ヤンさんはどんな学生でしたか?
- 中山
- 元気でパワフルでしたね。ちょっと大雑把なところはあるけれど、やることはちゃんとやる、優秀な学生でした。
- 編集部
- 逆にヤンさんに伺いますが、中山先生はどんな先生でしたか?
- ヤン
- もう、私にとっては恩人ですね。社会人になるための基礎を作ってくれた唯一の先生といっても過言ではありません。中山先生のゼミは吸収したいことがたくさんあって。また、いろいろな所に連れて行ってくださって、それが刺激になりました。今後生きていくためのいろんなヒントを投げかけてくださいました。
- 中山
- いやー、照れますね。恥ずかしくて聞いてられません(笑)。
- ヤン
- 私は21世紀アジア学部に入れて、本当によかったと思っています。社会で経験を積んでいくための基礎力を中山先生のところで付けさせてもらったので。私の中ではとても大切な時間でした。
可能性の扉を開く
- 編集部
- ゼミでは、どんなテーマで起業する学生が多いですか?
- 中山
- 地域を活性化したり、世界をつなぐ事業などが多いですね。たとえば大分県で起業した学生がいます。道の駅の経営を請け負って、そこを拠点にいろんな人が集まる事業を創出しました。学生が入札に参加したということで、当時は地元でも話題になり、よくメディアに出ていました。起業したのは大学4年のときですが、今でも立派にやっていますよ。そういえばこの学生も大連の留学組みですね。
- 編集部
- すごいですね。学生のうちに起業して、そのまま活躍されるって。
- 中山
- 台湾の留学生でも頑張っている卒業生がいます。彼は台湾で野球の上手な中学生を見つけて、甲子園を目指す日本の高校に留学させるというプロジェクトを始めました。プロ野球の助っ人の高校生版ですね。今、彼は台湾政府との仕事もいろいろやっていて、日本と台湾のビジネスを繋ぐエージェント的な存在になっています。逆に台湾に留学した学生は山梨でワイナリーをやっています。その他、インドネシアに留学した学生は、インドネシアの方を日本の企業に紹介している事業をやっています。
- 編集部
- みなさん、優秀ですね。
- 中山
- すべての学生がこうなるわけじゃないんですが、でも、できる限り多くの学生に活躍してほしいと思っています。
- 編集部
- ヤンさんは、大学の学びで大変だと感じたことはありますか?
- ヤン
- 中山先生のゼミでいうと、企業や団体などの現場に連れていっていただいたとき、「どういうことを感じましたか?」とか「何が課題だと思いますか?」とか、意見を聞かれることでした。その場で考えても、何も出てこなくて、答が出せなかった。消化不良のまま卒業してしまったという記憶があります。
- 中山
- 普通、大学時代には答は出ないですよ。でも、そういうことを経験することが大切で、自分の足りなさが分かってくる。すると彼女みたいに、そこから成長していきます。「やる気スイッチ」という言葉があるでしょう。私たちは学生のやる気スイッチを押してあげなくちゃならないんです。そうすると学生はワクワクする。それがいちばん大切だと思っています。
- 編集部
- やる気スイッチを押すために、心がけていることはありますか?
- 中山
- それはやっぱり体験ですね。千葉の長生村で、農業をやりながら古民家カフェをやっている卒業生がいます。その場で、我々のゼミは合宿をやっています。そこでは、スタートアップのプラン発表などをやるのですが、日中は農業と漁業を体験してもらいます。みんなで畑をやったり、砂浜で地引き網を曳いたり。体を動かして汗を流すと、心が動いてきます。農業と漁業って原点じゃないですか。お金を稼ぐことの意味というか、地に足を付けて、生きるとはこういうことだよと体験してもらうんです。
- 編集部
- なるほど。体を動かすと、心も動きだすということですね。
- 中山
- そう。海に入ったり、砂浜で相撲を取ったりすると、体がワクワクしてくる。そうすると心も動き始めます。それともう一つ、社会に出て活躍しているOBを授業に招いて、話してもらうということもやっています。これが学生には、効果があるんですよ。
- 編集部
- たとえば、どのような人を呼ぶのですか?
- 中山
- ヤンさんの後輩に、中国に留学した後、世界一周旅行に行った女性がいます。この子は変わっていて、今、メキシコでラーメン屋をやっています。世界をぐるっと回って、メキシコでラーメン屋ですよ。面白いでしょう。そういう子を連れてきて話してもらうと、学生はすごく興味を示します。同じ学部の卒業生がここまでやるんだという事例を示すと、可能性が見えてくるんです。自分もやればできるかもしれないって。
- 編集部
- なるほど。海外を経験すると、さらに心が動きだすというわけですね。
- 中山
- そうなんです。だから大学に入ったときの最初のガイダンスで、私は学生に言うんです。なんとか頑張って海外に行ってほしいと。怖いかもしれないので最初は1ヶ月から、そしてその後半年や1年、海外での生活を体験してもらうことを言い続けています。
- 編集部
- 日本を飛び出せば、世界が変わる……。
- 中山
- そうなんです。一人ひとりの学生の力を信じて、海外へ送り出してあげる、これが学部としての我々の思いです。一歩踏み出す勇気は必要ですが、踏み出した先には必ず成長があります。私たちは最大限、学生をサポートする体制を整えて、多くの学生を海外に送り出したいと考えています。一人ひとりの可能性の扉を開くために。
- 編集部
- 今日はありがとうございました。ヤンさんの今後の活躍を楽しみにしています。
中山 雅之(NAKAYAMA Masayuki)
国士舘大学 21世紀アジア学部 21世紀アジア学科 教授 21世紀アジア学部学部長
●博士(経営学)/横浜国立大学大学院 国際社会科学研究科
●専門/スタートアップ、経営教育
ヤン ヨシエ(YEOH Yoshie)
2013年度 21世紀アジア学部卒業
awoo株式会社 Senior Manager Customer Success
掲載情報は、2024年のものです。