学びのそのさきへ。ドキュメント国士舘

夢をあきらめない 国士舘大学
体育学部 体育学科教授  岡田 雅次 × 卒業生  藤田 健祐 体育学部の徳育 人を育てることは、心を育てること。この学びを胸に、日々、教員として生徒に向き合っている。

国士舘大学体育学部体育学科を卒業した藤田健祐さん。岡田雅次先生のもとで学び、大学院(スポーツ?システム研究科)に進学したのち、教務助手として岡田先生をサポート。その後教員採用試験に合格し、現在は公立中学校の体育教員として活躍しています。卒業生の藤田さんと岡田先生の対談をもとに、国士舘大学体育学部での学びと、その先の進路についてご紹介します。

大学時代の学びについて

編集部
藤田さんが卒業した体育学部体育学科は、どのようなことを学ぶところですか?
岡田
国士舘大学体育学部体育学科は、優れたスポーツ指導者と世界の第一線で活躍する競技者を養成することを目的の一つとしている学科です。ただし、スポーツは裾野が広いので、この学科を出た卒業生はさまざまな分野で幅広く活躍しています。その一つが、中学校?高等学校の体育の教員です。あとは警察官、消防官や、地方公務員などを目指す学生もいます。スポーツトレーナーとして活躍しているOBもたくさんいますね。
編集部
岡田先生は、現在どのような授業を担当されているのですか?
岡田
私は体育方法学?実習(陸上競技)とトレーニング論を担当しています。実習の授業では100m走、走り幅跳び、砲丸投げ、その他に共通でハードルを指導しています。体育学科は中学校?高等学校の体育の教員を目指す人が多いので、どのように生徒に陸上競技を教えればいいかということを学んでいます。ハードルは体育の教員採用試験対策ですね。
編集部
教員採用試験にハードルがあるのですか?
岡田
そうですね、多くはハードルが教員採用試験に入り、ハードル競技が難しい種目とされていると考えます。いまは授業が始まったばかりなのでハードルに慣れる段階ですが、最後の方ではみんなちゃんと跳べるようになりますよ。採用試験では動きの美しさも見られるので、きれいに跳ぶことが大切です。競技だけではなく、器具の扱い方や服装、姿勢なども試験では見られます。
藤田
そうですね。私の採用試験のときにも面接官が3人いて、それぞれ質問する事項や見るべきポイントが決まっていたような気がします。
岡田
そうだよな、だらだらしていたら、勉強がいくらできても不合格ですよ。だから授業の中では、器具の運び方やスターティングブロックの付け方など、細かいことまできちんと教えています。
編集部
藤田さんは、いま中学校の体育の教員をされていますね。学校の先生になろうと思って、国士舘大学の体育学部に入られたのですか?
藤田
いえ、私は教員志望ではなく、消防官になりたかったんです。
岡田
へぇ、そうだったの。初めて聞いた。
編集部
先生になろうと思うきっかけは何かあったのですか?
藤田
きっかけは、岡田先生ですね(笑)。大学では高校生の指導をすることもあるんですが、3年生のときに岡田先生から「おまえは高校生の面倒を見なさい」と言われたんです。それで練習や合宿に帯同させていただき、岡田先生から「こういうところを見るんだ」「ここを注意して見ておけよ」と教えていただくうちに、人を指導することの面白さに目覚めました。それで学校の先生になりたいと思いました。
編集部
藤田さんは陸上で、どんな競技をやっていたのですか?
藤田
私は高校時代にハンマー投げの選手をやっていました。当時、国士舘大学は投てきが強くて、女子砲丸投げで日本記録を出した森千夏先輩もいて、日本選手権の上位を国士舘が独占するという感じでした。ここに行けば自分も強くなれるんじゃないかと思って、国士舘大学に進学しました。
編集部
それで岡田先生の指導を受けたわけですね。
藤田
はい、いろいろ指導していただきました。
編集部
体育学部体育学科での学びは、いかがでしたか?
藤田
いや、もうびっくりでしたね。高校までの自分の練習時間は2?3時間でしたが、いきなり練習時間が3倍ぐらいになって。私がヘトヘトなのに、先輩方は笑いながら練習しているんですよ。力の差に愕然としました。でも、この差が埋まれば強くなれるんじゃないかと思って自分も頑張りました。そんなときに、岡田先生から言われた言葉があるんです。
編集部
どんな言葉ですか?
藤田
百回やってダメなら千回やりなさい。千回やってダメなら1万回やりなさい。1万回やってダメでも、9億回ぐらいやったら、もしかしたらできるかもしれない。そこまでやり続けるのか、それとも諦めるのか、どっちを選ぶんだって。私は絶対に諦めまいと思い、やり続けました。

いまに生きる大学の学び

編集部
藤田さんから見て、岡田先生はどのような先生でしたか?
藤田
もう、めちゃくちゃ恐かったですね(笑)。
岡田
え、恐かった?(笑)。
藤田
はい。すごく恐くて、最初は私の方が身構えていました。でも、なんかのときに「藤田、来いっ」て言われて、練習を見ていただいたんです。1年生メニューとおっしゃっていましたけど、やっぱり厳しいんですね。すごく恐いんです。恐いんですけど、「この人に教えてもらいたい」って強く思いました。この人に付いていけば、自分は強くなれると。先輩方もそうおっしゃっていました。
編集部
恐いけど、教わりたい……。
藤田
さっき話に出た森千夏先輩も、「岡田先生は神だよ」と言っていました(笑)。「こんなに自分のことを分かってくれる人はいないし、こんなに思ってくれる人もいないからね。その先生に練習を見てもらえるというのは、本当に幸せなんだから。それを忘れるんじゃないよ」って。
岡田
本当か? 森千夏はいつも逃げていましたよ。私に会うのが恐くて、そこの山から「来たーッ」って言って逃げていく(笑)。授業でも、いつも分からないように端っこの方に隠れていましたから。
藤田
もう一つ、岡田先生で印象に残っているのは、授業前のお話ですね。実技をやる前に必ずお話をされるんですよ。20分とか、長いときには40分ぐらい。こんな学活みたいなことをする先生は珍しいと思います。
岡田
学活は専門用語だよ。ホームルームと言ってくれ(笑)。
藤田
私はいま中学校の教員をやっていますが、朝の会などで生徒にいろんな話をします。最近のニュースとか、世の中で話題になっていることとか。岡田先生から教わったことを、生徒を相手にやっています。
編集部
岡田先生は、授業の中でどのようなお話をされるのですか?
藤田
私が覚えているのは、掃除の話ですね。掃除をしない生徒に対して、指導の仕方が悪かったということで、その教員が教育委員会から厳罰を受けたというニュースがあったんです。そのとき岡田先生が「掃除していない生徒の指導はどこに行ったんだ」という話をされました。まず掃除をしないことがおかしいんじゃないか。それを注意することの何が悪いんだと。いまでも強く印象に残っています。
編集部
岡田先生は、いまでも学生たちにお話をされるのですか?
岡田
しますよ。今日も実技の授業の前に話をしてきました。つい先日、渋谷駅で財布を落とした人が非常停止ボタンを押して電車を止める事件があったでしょう。駅員の対応を動画に撮って、ネットに上げるということが。あれはどうなんだと。電車を止めて、みんなに迷惑をかけて、どうするんだと。これについてみんなはどう思うのかと、学生に意見を聞きましたね。
編集部
実技とは関係のない話をされるわけですね。
岡田
そうです。教育とは、心を育てることだと思っていますから。やっぱり教員として、道徳みたいな話をしなきゃだめだと思っています。常識とか、マナーとか、モラルとかあるじゃないですか。社会に出るには、それはやっぱり身につけなくちゃいけないし、人の話をちゃんと聞きながら、自分の意見を言える人になってほしいと思います。ですから授業の前に、必ず時事問題みたいなことに触れて、どう思うって、学生の意見を聞くようにしているんです。
編集部
その教えを藤田さんは受け継いでいるのですね。
藤田
どこまで受け継げているかは分かりませんが、私の9割は、たぶん岡田先生でできていると思います(笑)。岡田先生からは、「人は心だ」ということを教えていただきました。それがいま、教員をやっていて、本当にそうだなと思えるところです。私は子どもたちの心を育てようと思って、中学校の教員をやっています。いまの生徒たちからすると、古いやつみたいに思われるかもしれないけど、これはとても大切なことだと思っています。

教育とは、心を育てること

編集部
岡田先生から見て、藤田さんはどのような学生でしたか?
岡田
まじめに何でも前向きにやる学生でしたよ。だから先生になった方がいいと思って、さっき言ったようなアドバイスをしたんだと思います。頼りになる存在だったので、大学院を卒業した後は、教務助手として大学に残ってもらいました。教員としていちばん難しいのは、子どもを叱ることなんです。叱るのって、本当に大変なんですよ。子どもからも嫌われますから。でも、藤田くんはちゃんとそれができる。是は是、非は非と、学生たちに示せる人間なんです。だから、助手になって手伝ってもらいました。
編集部
その後、公立学校の先生になられたわけですね。
藤田
はい。岡田先生に「ここを受けてこい」って言われたので、「分かりました!」と言って受けてきました(笑)。
岡田
先生になりたいっていうから、じゃ、採用試験を受けてみなよと言ったら、受かちゃった。優秀なんですよ。
編集部
実際に中学校の先生になってみて、いかがでしたか?
藤田
教員として赴任したのが、言い方が難しいんですが、ちょっとやんちゃな子の多い地区だったんです。初めて行ったときは、けっこう荒れていましたね。
岡田
漫画の世界ですよ。先生が胸ぐらつかまれちゃうみたいな。
藤田
いまはだいぶ落ち着いてきましたが、以前はそういうこともありましたね。職員室に生徒が来て、「出てこい」って先生を呼び出してしまうような。暴れて、ものを壊したり、人に危害を加えようとするから動きを止めるように体を制止して、落ち着くのを待つんです。そのうちに生徒が泣き出してしまって、最後は私が怒られてしまうんです。(笑)。
岡田
そういうことはありがちだよね(笑)。
藤田
たとえばですが、ほかの誰かに暴力的な行為を行おうとしている生徒がいるとして、それを教員が体を張って制止する。そうしたら、教員の方が指導の仕方がおかしいと指導されてしまう。それはおかしいでしょうと言ったんです。他の生徒に危険があって、それを体を張って制止しようとした方が悪いというのは。教員はいったい何を守るんだという議論をしたこともありました。
編集部
いまはどうですか。だいぶ落ち着いてきたとおっしゃいましたが。
藤田
だいぶ変わりましたね。問題を起こした生徒の話をちゃんと聞いてあげるんですよ。その子に何があったのかとか、何でそうなったのか。話を聞いたうえで、「君の気持ちは分かるけど、その行動は間違っているよ」と言うと、分かってもらえるんです。その子自身は決して悪い子じゃない。表現や行動が間違っているだけ。だから、そこを変えていく必要があります。君が大人になって生きていくとき、そういう行動を取っていたら誰も協力してくれないし、認めてくれないよ。君の気持ちは分かるけど、暴力で解決できることはないんだよって。
岡田
初めは背を向けていた子どもたちが、少しずつ横を向いて、正面を向いてきて、「先生だったら喋れるわ」とか「俺の気持ちを分かってくれる」となってくるのは、先生冥利に尽きることかもしれないですね。
藤田
子どもって本能で見分けるんですよ。この人はちゃんと向き合ってくれる人か、そうじゃないかっていうのを。向き合ってくれないと思っている人が何を言っても、子どもは聞いてくれません。
岡田
学校には遅刻することがかっこいいと思っている子とか、すぐ手が出ちゃう子とか、いろいろな子がいますよ。成長をサポートしてあげて、いい道に導いてあげれば、そんなことはしなくなる。ちゃんと18才で社会に貢献できる人間になる。大人が偏見をもって接するからいけないんだよな。誰だって頭に来たら殴りたくなることぐらいありますよ。
藤田
そう、殴りたくなる気持ちは分かる。でも、殴っちゃいかん。それを教えてあげるんですね。
編集部
先生をやっていて、どんなときにやりがいを感じますか。
藤田
中学校の教員をやっていてやりがいを感じるのは、大きく二つあります。一つは子どもの成長が見られること。もう一つは、自分の手前味噌になりますが、卒業式の日に「担任が藤田でよかった」「先生に出会ってなかったら、おれ、たぶんダメな人だった」と言いに来てくれる子がいることですね。本当にありがたいし、すごく嬉しいです。人に注意するのって、さっき岡田先生もおっしゃったようにエルギーが要ることなんです。もうダメ、めんどくさい、苦しいと思うこともあるけど、それでも生徒と向き合わなければいけない。その努力が報われたときは、先生をやっていてよかったと思える瞬間です。
編集部
保護者の方ともお話をされることはあるのですか?
藤田
はい、どのご家庭の保護者ともできるだけ話をしたいと思っています。ご家庭によっては週に何度か連絡を取る場合もありますし、話をしに直接会いに行く場合もあります。どのご家庭にも私がどのように生徒を育てたいのかを分かってもらい、生徒がちゃんと社会で生きていけるように、家庭と学校で力を合わせていきたいと思っています。一人ずつ特性が違うので、その子その子に合わせた指導をしていかなければいけないと思っていますし、そのことをご家庭とも共有したいと思っています。
編集部
社会で生きていけるようにするとは、どういうことですか?
藤田
たとえば制服とか髪型です。服装も髪型も小学校は自由ですよね。でも、中学になると制服を着るようになる。髪型もツーブロックがいいとか悪いとか論争がありましたけど、私は場面によって使い分けられればいいと思っているんです。ルールを守るべきところではちゃんと守る。社会に出て求められるのはそこです。たとえば、ファーストフードでアルバイトをすると制服がありますよね。俺、この帽子は嫌だから被らない、というわけにはいかないでしょう。自由な場所では自由でいい。でも、決められたルールは守る必要がある。そのメリハリが大事で、それを自分で判断できる人になってほしいんです。
岡田
ははは、本当だ。
藤田
いや、この帽子の話は、岡田先生から聞いたんですよ(笑)。
岡田
そうだったか(笑)。私はこの国士舘大学で先輩から教わったことを、みんなに伝えているだけですよ。そういう役回りなのかなと思っています。
藤田
中学校が義務教育の最終の3年間となります。ほとんどの生徒は進学しますが、中には進学をしない生徒もいます。そのことを考えるとやっぱり中学校の3年間で、社会にちゃんと出られる子に育てなくちゃと強く思います。本当に基本的なことですけど、時間を守る、挨拶をする、返事をする、分からないことがあったらもう一度聞く。その上で生徒には、できれば「志を持て」と言っています。夢はでっかく、何かに向けて、志を持って頑張れる人になってほしい。それは私自身が岡田先生から教わってきたことなんです。
岡田
うーん、さすがだな。藤田先生に限らず、どこの県のどこの学校でも、大変なところにうちの卒業生が行って頑張ってくれています。みんな本当に自然体で先生をやっている。頼もしいですね。
編集部
国士舘の「心を育てる」教育が受け継がれているのですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。

岡田 雅次(OKADA Masaji)

国士舘大学 体育学部 体育学科教授
●学士(体育学)/国士舘大学 体育学部 体育学科卒業
●専門/体育学

藤田 健祐(FUJITA Kensuke)

2004年度 国士舘大学体育学部体育学科卒業
公立中学校教員

掲載情報は、2022年のものです。