政経学部の哲学

編集部: 国士舘大学の政経学部で、学生たちはどんなことを学ぶのですか?

 国士舘大学の政経学部が目指すのは、政治、経済の専門的な知識を活用する力を身に付け、多様化する現代社会の中で中心的な役割を担う人材を育成することです。そのために基礎学力としての知識や理解力、社会や国家、国際社会のあるべき姿や課題を論理的に考え?判断する力を身に付けなければなりません?また、自分の考えを他者に分かりやすく説明できる表現力や、協働する姿勢も必要になります。これらの目的を達成するために、一人ひとりに目が行き届くきめの細かい指導を行っています。本学部には「政治行政学科」と「経済学科」の2学科があります。幅広い分野での知識教養を身に付けるため、両学科のハードルを低くし、双方の科目を履修できるようになっています。

編集部: 先生は、主にどのような授業をご担当されているのですか?

 私が受け持っているのは、2年生の基礎ゼミと、3年生の専門ゼミで、来年度は4年生のゼミと卒論指導も受け持つ予定です。2年生の基礎ゼミでは、まず日本や世界の経済の動きを幅広く見渡し、専門的な学びの下地を作ります。最新の経済ニュースのチェック、グループワーク、討論、プレゼンなどをとおしてアクティブラーニング的な授業を行っています。一方的に教えてもなかなか知識は身に付きません?受け身でない自主的な取組みをとおして初めて身に付くものだと思います。ただし、スポーツと同じで学問研究にもルールがあります。データや文献の探し方、扱い方、他の人の発見や意見の取り入れ方など、守るべきアカデミック?ルールは繰り返し伝えて自覚を促しています。
 ゼミの他には、フランス語の初歩から中級までを受け持っていて、少人数クラスでコミュニケーションを中心に双方向の楽しい授業になるよう工夫しています。4技能の向上や異文化理解はもちろんですが、私が特にこだわっているのは、外国語に直訳?逐語訳したときまるきり通じなくなったり別の意味になったりするのはどうしてか、ということに気づいてもらうことです。言語が違えば発想が違い、世界を見る目が違ってくるということを実感してほしいと思っています。
 外国語学習とは、住み慣れすっかりなじんでいる言葉の家から外に出て、不可思議な空間で右往左往することです。しかし、そうやって私たちは自分の世界を広げられるのです。

編集部: 3年生の専門ゼミでは、どのような学びを行っているのでしょうか?

 専門ゼミでは、EU経済を扱っています。テーマの大枠はこちらから提示しますが、そこから細かい問題を切り出すのは学生自身です。EUの成立過程や制度的仕組み、市場統合やユーロの導入過程、共通農業政策、エネルギー?環境政策、英の離脱問題、日本との経済連携協定など多岐にわたるテーマから各人がリサーチクエスチョンを探し、それについて自分でデータを探し、文献を読み、考察を加え、発表します。そこに私や他の学生が質問を投げかけます。それに対して学生は一歩進んだリサーチをし、次の発表に備えます。学生にとって決して楽ではなく、しばしば苦渋の表情も見られますが(笑)、こうやって繰りかえしていくと、どんどん学びが深まり、彼らの頭がイキイキと回転してくるのが分かります。このプロセスを何よりも私は重視しています。

編集部: 先生がEUに関心を持ち、研究するようになったのはなぜですか?

 私は日本の大学で修士課程を修了した後に、3年間の予定でフランスに留学しました。パリ大学の博士課程で専門の哲学の勉強をしていたのですが、それ以外にヨーロッパの文化社会や政治経済があまりにも面白くなってしまい、日本に帰れなくなってしまいました。結局1984年から96年までの12年間、博士論文を先延ばししながら(笑)、留学生用の労働許可を取得して、日本のマスコミの取材の下準備や通訳をしたり、日本の雑誌向けに時事問題を扱った記事を書いたりしていました。なぜそれほど面白かったかというと、すぐ目の前で歴史が作られていたからです。当時のヨーロッパは市場統合と通貨統合に向かっていくさなかでした。ベルリンの壁が崩壊し、東欧で革命が起き、冷戦が終結し、東西ドイツが統一され、ECがより大きなEUとなり、新しいヨーロッパへの希望と不安が錯綜していました。
 私が住んでいた学生寮には、ヨーロッパの各地から学生が集まっていました。彼らは、最初はヨーロッパの統合に対して半信半疑でした。ところが、実際に統合が進むに連れ、自分たちの将来をヨーロッパ規模で考えるようになってきたのです。ヨーロッパ人としての意識の芽生えを、私は彼らから感じ取ることができたのです。

編集部: ご自身の留学体験から、EUへの関心が生まれたわけですね。

 そうなんです。フランスとドイツは隣国同士でありながら、幾度となく戦争を繰りかえしてきました。ところがその両国が、手を取り合って一つのヨーロッパを作ろうとした。欧州のあちこちには紛争もあり、独裁政権もありましたが、「共同体への加盟」という未来に向かって歩む中で、民主制へと移行し、紛争を解決してきたのです。その基盤となったのが、相互利益、共存共栄を実現する経済システムの構築でした。EUが身をもって示してくれたこと、それは平和?友好とは、経済というグラウンドが整備されてこそだということです。国家間、民族間に経済の壁というか溝がある状況で、精神的に平和や異文化理解や他者への寛容の精神を説いたところでうまくいかない。逆に、共通の経済的基盤を整えれば、それらは実現しやすくなる。もちろん、EUは今も格差や移民問題、ポピュリズムといった問題を抱えていますが、それを今後どう乗り越えるかも含めて、経済統合という「実験」は、私たちアジアの国々の未来を探るうえでも大きなヒントになると私は考えています。

編集部: 先生のご専門は哲学とうかがいました。
この分野ではどのようなことを研究されているのですか?

 「哲学」と聞くと「何の役に立つの」と眉をひそめる人がいますが、実は普段身のまわりにある事柄について、少し深く考えてみることが哲学なのです。当たり前に思っていたことをちょっと疑ってみる。なぜだろうと考えてみる。そうすることで、今まで見えなかったことが見えてきます。
 私が主に研究しているのは、20世紀フランスの哲学者ジャン=ポール?サルトルです。ただ、その思考を読み解くためには古代ギリシャまで遡らねばならず、特に不可欠なのは、17世紀フランスのデカルト、そして18世紀後半から20世紀前半にかけてのドイツ哲学です。デカルトは、すべてをいったん疑うこと